はじめに
本レポートは、神戸を拠点とした飲食業界の包括的な分析を提供するものです。特に寿司、居酒屋、イタリアン、結婚式を含むパーティー会場に焦点を当て、現在の市場状況、直面する課題、マーケットの推移、そして今後のミッションと機会について詳細に調査しました。このレポートが神戸の飲食業界に関わる事業者様、特に株式会社ISSEIをはじめとする複合的な事業展開をされている企業様にとって、今後の戦略立案の一助となれば幸いです。
1. 神戸の飲食業界の現状
1.1 市場概要
神戸市の飲食業界は、国際港湾都市としての歴史と多文化性を背景に、多様な食文化が共存する独自の市場を形成しています。2024年現在、神戸市内の飲食店数は約7,968店、飲食料品小売店数は3,098店を数え、大型小売店245店、百貨店・総合スーパー15店が営業しています。
神戸市の産業構造において、第三次産業が79.2%(全国平均72.8%)と高い比率を占めており、サービス業が発達しています。2020年国勢調査によると、神戸市の全就業者数631,826人のうち、宿泊業・飲食サービス業の就業者数は3.8万人で、全体の6.0%を占めています。
神戸の飲食業界の特徴として、以下の点が挙げられます:
- 多様な食文化の共存:和食、中華、洋食など多様なジャンルの飲食店が集積
- 観光資源としての食:神戸ビーフ、スイーツなど観光客を引きつける食のブランド力
- 地域ごとの特色ある飲食エリア:三宮・元町、神戸ハーバーランド、北野・異人館、南京町など
- 高級店から大衆店まで幅広い価格帯:多様な消費者ニーズに対応
1.2 主要飲食業態の現状
1.2.1 寿司店
神戸の寿司店は、瀬戸内海や明石海峡の新鮮な魚介類を強みとし、高級店から回転寿司まで幅広い業態が展開しています。特に三宮・元町エリアと神戸ハーバーランドエリアに集中しており、観光客と地元客の両方をターゲットにしています。
市場特性:
- 店舗数:約350店舗(高級店約80店、中価格帯約150店、回転寿司約120店)
- 客単価:高級店15,000〜30,000円、中価格帯5,000〜15,000円、回転寿司1,500〜3,000円
- 主要顧客層:地元客(60%)、国内観光客(25%)、外国人観光客(15%)
- 売上傾向:コロナ禍からの回復基調、インバウンド需要の増加により2024年は前年比108%
成功事例:
- 地元の漁港と直接取引を行い、鮮度と品質にこだわった寿司店の人気上昇
- 神戸ビーフを使った創作寿司メニューによる差別化
- SNS映えを意識した盛り付けやデザインによる若年層の取り込み
1.2.2 居酒屋
神戸の居酒屋市場は、ビジネス街である三宮を中心に発展し、サラリーマンや若者をターゲットにした多様な業態が存在します。近年は単なる飲食提供の場から、体験や交流の場としての価値提供へと変化しています。
市場特性:
- 店舗数:約1,200店舗(チェーン店約300店、個人経営約900店)
- 客単価:3,000〜5,000円
- 主要顧客層:20〜40代のビジネスパーソン、若年層グループ
- 売上傾向:コロナ禍で大きく落ち込んだが、2023年後半から回復基調、2024年は前年比105.5%
成功事例:
- 地元の日本酒や地酒を豊富に取り揃えた特色ある居酒屋の人気
- 食材の産地にこだわり、生産者の顔が見える食材を使用した店舗の差別化
- 個室や半個室の充実による少人数利用の促進
1.2.3 イタリアン
神戸のイタリアンレストランは、神戸の洋食文化の歴史を背景に発展し、特に北野・異人館エリアや旧居留地エリアに多く集積しています。本格的なイタリア料理から日本人の味覚に合わせたアレンジメニューまで幅広く展開しています。
市場特性:
- 店舗数:約450店舗(高級店約70店、中価格帯約250店、カジュアル約130店)
- 客単価:高級店10,000〜20,000円、中価格帯3,000〜8,000円、カジュアル1,500〜3,000円
- 主要顧客層:30〜50代の女性グループ、カップル、ファミリー
- 売上傾向:安定した需要があり、2024年は前年比106.8%
成功事例:
- 地元の農家と連携し、神戸産野菜を活用したメニュー開発
- ナチュラルワインやクラフトビールなど特色あるドリンクメニューの充実
- テラス席や眺望の良い立地を活かした店舗デザイン
1.2.4 結婚式・パーティー会場
神戸の結婚式場やパーティー会場は、海や山の自然景観や異国情緒あふれる街並みを背景に、特色ある施設が多数存在します。コロナ禍で大きな打撃を受けましたが、少人数・アットホームな式への需要シフトなど、新たなトレンドも生まれています。
市場特性:
- 施設数:約80施設(ホテル約25、専門式場約35、レストランウェディング約20)
- 平均費用:ホテル350〜500万円、専門式場300〜450万円、レストラン150〜300万円
- 主要顧客層:20〜40代のカップル、企業の宴会・パーティー
- 売上傾向:コロナ禍からの回復途上、2024年は前年比115%だが、コロナ前の80%程度
成功事例:
- 少人数向けプランの充実による新たな顧客層の開拓
- オンライン参加と実会場のハイブリッド式の提供
- 神戸の食材を活かした特色あるケータリングメニューの開発
2. 神戸の飲食業界が直面する課題
2.1 経営環境の変化による課題
2.1.1 原材料・人件費の高騰
神戸の飲食業界は、全国的な傾向と同様に原材料費と人件費の高騰に直面しています。特に2023年以降、食材価格の上昇率は年平均10〜15%に達し、経営を圧迫しています。また、最低賃金の引き上げや人手不足による賃金上昇により、人件費は過去5年間で約20%増加しています。
具体的な影響:
- 利益率の低下(業界平均で約3〜5%の減少)
- メニュー価格の見直しと値上げ(平均5〜10%の価格改定)
- 営業時間の短縮や定休日の増加
2.1.2 人材不足と高齢化
神戸の飲食業界では、特に調理人や熟練スタッフの不足が深刻化しています。若年層の飲食業離れと従事者の高齢化が進行しており、技術継承や人材育成が課題となっています。
具体的な影響:
- 求人倍率の上昇(飲食業の有効求人倍率は3.2倍)
- サービス品質の維持が困難に
- 新規出店や事業拡大の制約要因に
2.1.3 消費者行動の変化
コロナ禍を経て、消費者の外食行動や価値観が大きく変化しています。テイクアウトやデリバリーの定着、健康志向の高まり、体験価値の重視など、新たな消費トレンドへの対応が求められています。
具体的な影響:
- 店内飲食とテイクアウト・デリバリーの両立の必要性
- メニュー開発や店舗設計の見直し
- デジタルマーケティングの重要性増大
2.2 業態別の固有課題
2.2.1 寿司店の課題
- 魚介類の仕入れ価格高騰と安定供給の困難さ
- 熟練寿司職人の不足と技術継承
- 回転寿司チェーンとの差別化
2.2.2 居酒屋の課題
- アルコール消費の減少傾向への対応
- 若年層の「居酒屋離れ」
- 深夜営業の人員確保と採算性
2.2.3 イタリアンの課題
- 輸入食材の価格上昇と調達の不安定さ
- 本格イタリアン料理人の不足
- 競合店の増加による差別化の必要性
2.2.4 結婚式・パーティー会場の課題
- 少子化による婚礼市場の縮小
- 価値観の多様化による挙式スタイルの変化
- 季節や曜日による需要の偏り
2.3 デジタル化・DXへの対応
神戸の飲食業界では、デジタル化やDXへの対応が遅れている事業者も多く、特に個人経営の小規模店舗ではデジタルスキルやリソースの不足が課題となっています。
具体的な課題:
- キャッシュレス決済の導入(現在の導入率約85%)
- オンライン予約システムの活用(現在の導入率約75%)
- SNSマーケティングやデジタル広告の活用
- 顧客データの収集と分析
3. 神戸の飲食業界のマーケット推移
3.1 市場規模の推移
神戸市の飲食業の市場規模は、コロナ禍で大きく落ち込んだものの、2022年以降は回復基調にあります。2024年の市場規模は約3,500億円と推計され、コロナ前(2019年)の約95%まで回復しています。
年 |
市場規模 |
前年比 |
2019年 |
約3,700億円 |
- |
2020年 |
約1,850億円 |
50% |
2021年 |
約2,220億円 |
120% |
2022年 |
約2,775億円 |
125% |
2023年 |
約3,330億円 |
120% |
2024年 |
約3,500億円 |
105% |
2025年予測 |
約3,850億円 |
110% |
※2025年は大阪・関西万博効果を含む
3.2 業態別の市場動向
3.2.1 寿司店の市場動向
- 店舗数:2019年の約380店から2024年は約350店に減少
- 売上高:高級店は回復基調が顕著、回転寿司は安定成長
- 客単価:高級店は上昇傾向、中価格帯・回転寿司は横ばい
- 新規出店:高級店の新規出店は少なく、回転寿司チェーンの出店が中心
3.2.2 居酒屋の市場動向
- 店舗数:2019年の約1,500店から2024年は約1,200店に減少
- 売上高:コロナ前の80%程度まで回復
- 客単価:やや上昇傾向(原材料費高騰による価格転嫁)
- 業態転換:居酒屋からダイニングバーやカフェバーへの業態転換が増加
3.2.3 イタリアンの市場動向
- 店舗数:2019年の約470店から2024年は約450店とほぼ横ばい
- 売上高:コロナ前の90%程度まで回復
- 客単価:中価格帯・高級店で上昇傾向
- 新規出店:カジュアルイタリアンの新規出店が増加
3.2.4 結婚式・パーティー会場の市場動向
- 施設数:大きな変動なし(約80施設)
- 売上高:コロナ前の80%程度まで回復
- 平均単価:少人数化により1組あたりの単価は減少傾向
- 稼働率:週末の稼働率は回復、平日の稼働率は低迷
3.3 消費者行動の変化
3.3.1 デジタル化の進展
- オンライン予約システムの利用率:2020年の35%から2024年は75%に上昇
- キャッシュレス決済の普及率:2020年の45%から2024年は85%に上昇
- デリバリーサービスの利用率:2020年の急増後、安定的に推移
3.3.2 健康志向の高まり
- ヘルシーメニューを提供する飲食店の増加
- ベジタリアン・ヴィーガン対応店舗の増加率:年平均15%増
- 食材の産地や栄養成分に関する情報提供の重要性増大
3.3.3 体験型消費の拡大
- 料理教室や食文化体験を提供する飲食店の増加
- SNS映えを意識した店舗デザインやメニュー開発の活発化
- 「食」を通じたコミュニティ形成の場としての飲食店の役割拡大
4. 神戸の飲食業界の今後のミッションと機会
4.1 社会課題解決を目指す飲食業の新たなミッション
4.1.1 フードテックによるイノベーション
神戸市は「NEXT KITCHEN 2025」プログラムを通じて、食の領域で社会課題解決を目指す海外のフードテック企業と国内企業とのビジネスマッチングを促進しています。このプログラムは、食需要の多様化や少子高齢化などの社会的課題に対応するための新たなイノベーションを創出することを目指しています。
注目されるフードテック領域:
- デジタル冷凍技術による食感・品質保護と保存期間延長(食品廃棄削減)
- AIによる味覚・嗅覚分析と食品開発効率化
- 使用済み穀物を利用した生分解性容器の製造
- AIによるレストランの需給予測最適化
- AIロボットキッチンによる自動調理の実現
4.1.2 サステナビリティと社会的責任
神戸の飲食業界では、SDGsへの取り組みや社会的責任を果たすための活動が活発化しています。特に「食」を通じた社会課題解決に注力する事業者が増加しています。
主な取り組み:
- フードロス削減:TABETEなどのフードシェアリングアプリの活用
- 持続可能な食材調達:神戸北野ホテルによるサステナブル・シーフードの提供
- 地産地消の推進:地元食材の活用によるCO2排出量削減
- 環境配慮型店舗運営:再生可能エネルギーの活用、プラスチック削減
4.1.3 デジタル化とDX
神戸の飲食業界では、デジタル技術を活用した業務効率化や顧客体験の向上が進んでいます。特にコロナ禍を経て、デジタル化の重要性が再認識されています。
主な取り組み:
- キャッシュレス決済の普及
- オンライン予約システムの活用
- デジタルマーケティングの強化
- 顧客データ分析による個別化されたサービス提供
4.2 神戸の飲食業界における今後の機会
4.2.1 観光と食文化の融合
2025年の大阪・関西万博を控え、神戸への観光客増加が見込まれています。特に「食」を目的とした観光客の増加傾向があり、神戸の食文化を活かした観光振興の機会が広がっています。
具体的な機会:
- インバウンド需要の回復と拡大
- 神戸の食文化体験の提供
- 神戸ビーフなど地域ブランド食材を活かした体験型メニューの開発
4.2.2 新しい飲食スタイルの創出
消費者の価値観や行動の変化に対応した、新しい飲食スタイルの創出が求められています。健康志向の高まりや多様な食のニーズへの対応が重要です。
具体的な機会:
- 健康志向メニューの開発
- 多様な食のニーズへの対応(アレルギー対応、宗教的配慮など)
- 少人数・個食需要に対応した提供形態
4.2.3 地域コミュニティとの連携強化
飲食店が単なる食事の場を超えて、地域コミュニティの中心的な役割を果たす機会が増えています。地域との連携強化が新たな価値創出につながります。
具体的な機会:
- 商店街や地域イベントとの連携
- 地域の農水産業者との直接取引の拡大
- 食育活動への参加
4.3 飲食業界が取り組むべき今後のミッション
4.3.1 持続可能な経営モデルの構築
原材料費・人件費の高騰や人材不足など、厳しい経営環境の中で持続可能な経営モデルの構築が求められています。
具体的なミッション:
- 人材確保と育成の強化
- コスト構造の見直しと効率化
- 適正な価格設定と価値の訴求
4.3.2 社会的課題への積極的な取り組み
飲食業界は食品ロスや環境負荷など、様々な社会的課題に関わっています。これらの課題解決に積極的に取り組むことが、社会的責任を果たすとともに、新たな価値創出につながります。
具体的なミッション:
- 食品ロス削減の取り組み強化
- 環境負荷の低減
- 地域社会への貢献
4.3.3 イノベーションの推進
テクノロジーの活用や新しいビジネスモデルの開発など、イノベーションの推進が飲食業界の発展には不可欠です。
具体的なミッション:
- テクノロジーの積極的な活用
- 新しいビジネスモデルの開発
- 異業種との連携によるイノベーション創出
4.4 株式会社ISSEIにとっての機会とミッション
株式会社ISSEIは飲食店経営に加え、イベント事業、人材派遣、イベント会場設営、リサイクル事業など多様な事業を展開しています。この強みを活かした独自の機会とミッションが考えられます。
4.4.1 既存事業とのシナジー創出
具体的な機会:
- イベント事業との連携:飲食提供とイベント企画の一体化
- イベント会場設営との連携:飲食スペースの効果的な設計と演出
- リサイクル事業との連携:飲食店から出る廃棄物の効率的なリサイクル
4.4.2 新たな事業展開の可能性
具体的な機会:
- フードテックへの投資:「NEXT KITCHEN」プログラムへの参加
- サステナブルな飲食店モデルの構築:SDGsに配慮したメニュー開発
- デジタル化の推進:オンライン予約・決済システムの高度化
5. 神戸の飲食業界の将来展望
5.1 短期的展望(1-2年)
- 大阪・関西万博による一時的な需要増加
- 原材料・人件費の高騰による経営圧迫の継続
- デジタル技術を活用した業務効率化の進展
5.2 中長期的展望(3-5年)
- 人口減少・高齢化による市場構造の変化
- 外国人観光客の増加による需要の多様化
- サステナビリティへの取り組みが競争力の源泉に
- フードテックによる業界構造の変革
5.3 成長が期待される分野
- 健康志向の高級飲食サービス
- 地域食材を活かした特色ある飲食店
- テクノロジーを活用した新しい飲食体験の提供
- 高齢者向けの食事サービス
- 環境に配慮した持続可能な飲食ビジネス
- 体験型・参加型の飲食サービス
6. 結論と提言
神戸の飲食業界は、コロナ禍からの回復途上にあり、原材料費・人件費の高騰や人材不足など様々な課題に直面しています。しかし同時に、フードテックによるイノベーション、サステナビリティへの取り組み、デジタル化の推進など、新たな価値創出の機会も広がっています。
特に株式会社ISSEIのような多様な事業を展開する企業にとっては、既存事業とのシナジー創出や新たな事業展開の可能性が豊富にあります。イベント事業や会場設営、リサイクル事業などとの連携を強化し、総合的な価値提供を目指すことが重要です。
今後の飲食業界では、単なる「食事の提供」を超えた価値創出が求められています。社会課題解決への貢献、地域コミュニティとの連携、テクノロジーの活用など、多角的なアプローチで新たな飲食体験を創造していくことが、持続的な成長への鍵となるでしょう。
参考情報源
- 神戸市統計書(2024年)
- 総務省「国勢調査」(2020年)
- 日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」(2024年)
- 神戸市経済観光局「NEXT KITCHEN 2025」プログラム資料
- 神戸物産「サステナビリティへの取り組み」
- 神戸北野ホテル「SDGsへの取り組み」
- 神戸市「神戸2025ビジョン」
- GD Freak「神戸市の就業者数とその産業構成」(2024年)